Neue HelveticaがTEDのために本領を発揮
7年ぶりにウェブサイトのデザインを変更したTED(Technology Entertainment Design)は、TED TALKで語られる情熱的なスピーチとその素晴らしいアイデアを伝えるのにふさわしい書体としてNeue Helveticaを採用しました。
TEDのウェブサイト(TED.com)は2007年に制作されて以降、昨年初めてデザインを変更しました。ニューヨークシティのオフィスでTEDの担当者のみなさんにお会いした際には、以下のような話がありました。
「デジタルの世界にとっては2007年はかなり昔のこと。TEDが組織として成長し、ウェブサイトのコンテンツが増えるにつれて、時代遅れのウェブサイトになっていきました」
今回のTED.com(ウェブサイト)のリニューアルは、単なるウェブサイトの作り変えではなく、もっと大きなことをするつもりでした。TEDでは、既存のウェブサイトの構造の問題点を一時的に解消するのではなく、これまでになかった「デジタル的な」拠り所となるウェブサイトを作る必要がありました。
「我々は強い意志を持って技術的なプラットフォームのフロントエンドとバックエンドを再構築し、メディアの動きや変化にも対応できるウェブサイトを構築したかったのです」とTEDの製品開発ディレクターのThaniya Keereepartは述べています。
「我々はレスポンシブ デザインが当たり前になった今、ウェブサイトのデザインを刷新する大きな決断をしました」
ウェブサイトでは、TEDカンファレンスで用いられる既存の視覚的な言語を念頭におく必要がありました。
「デザイン面では、デザインをより進化させるアプローチをとるようにしました。TEDでは独特の視覚的な言語が用いられており、これまでとてもよい効果を発揮してきました。デザインを改変する際、ミニマリズム、余白、グリッドデザインの原理をベースにし、その多くは変更しないように心がけました。それは私たちが大切にしているTEDの歴史の移り変わりなのです」とTEDのデザインサービスディレクターであるMike Femiaは述べました。
まず約6ヶ月に渡り、それまでにいただいたウェブサイトに関する膨大な数のメールや広範囲におよぶアンケートを徹底的に研究しました。その後、その過程をブログに詳細に記録しました。この工程を終えるのに約1年かかりました。
「我々はTEDコミュニティに関わる多くの方々、例えば催し物の主催者、通訳者、スピーカー、参加者、熱心なTEDファンの方と話をしました。そして引き続きTEDコミュニティを活用し、デザインを新しくする過程で、ユーザからのさまざまな評価をいただきました」とThaniyaは説明しました。
TEDコミュニティとの深い関わりによってわかったことは、TEDコミュニティが求めているデザインとデザインチームが目指すデザインの方向性は一致していたということでした。つまり、中立的な立場を持ちながらTEDのコンテンツを更新する環境を整え、TEDの内容を妨げることのない空間を作ることでした。TEDのウェブサイトのデザインは、見せるためのものではなく、(ウェブサイトにアクセスする)ユーザとの間の橋渡しになる必要があったことは始めから明らかでした。
デザインチームは、過去にTEDカンファレンスがアートとデザインの面でウェブサイトよりも先行していたことを認めています。そして、今回ウェブサイトをリニューアルするにあたり、それまであったギャップを解消するつもりでした。
「これまではシステムスタックフォントを使い、何とかやってきましたが、それはTEDブランドには不十分なものでした。今後はTEDカンファレンス側で行われていることすべてをウェブサイトでも確実に行うようにしたいのです。これは今後も継続して行なっていきたいことで、われわれが損ねたくないと思っている最も大切な美学についても言えることなのです」
とデザインチームの主任UXデザイナーのAaron Weyenbergは述べています。
TEDが最も大切にしている美学の1つがフォントです。TEDカンファレンスでは、初期のころからHelvetica®をTED TALKやブランドの書体として用いてきました。TEDのオリジナルロゴは、Neue Helvetica®をベースに作られています。しかし、Helveticaに対して批判が向けられること、それはTEDにとっては強みになります。
「Helveticaに対して向けられる批判は、すべてが強みになります。批判の声はHelveticaが冒険をしない面白みのないフォントであるということなのですが、それは我々にとっては強みなのです。なぜならば主役であるスピーカーのアイデアをHelveticaが妨げることは絶対にないのですから」とMikeは述べます。
TEDは書体に対する敬意についても明確で、「Helveticaは極めて美しく明瞭な書体で、たとえどんなに一般的に使われ、平凡で退屈なフォントであると言われても、デザイン面においては普遍的で完成された書体なのです」
Helveticaだからこそ、一歩下がってTEDがうまくいくように見守ることができたのです。とAaronは述べ、さらに以下のように説明しました。
「Helveticaはどちらかと言えば特徴のない書体です。そしてTEDで成し遂げようとしていることは、アイデアのアーカイブを作ることであり、トレンディーなことをしようとしているわけではありません。ですからある意味流行り廃りのないものにしたいと思っています」
Aaronは続いて、TEDの写真や動画や画像にはインパクトがあるが、ウェブサイトのコンテンツはある程度インパクトを抑える必要があると述べています。
「コンテンツがより実用的になります。Helveticaは今でも見事なフォントで、様々な種類のHelveticaを使えば、指示書から報告書、音声の書き起こしにいたるまで、それぞれの書面に合ったトーンに調節することができます。Helveticaは目立たずにさまざまなことを可能にしてくれるのです」
Helveticaは、他の美学を受け入れるための空間を提供し、TEDチームがある程度実験することを可能にしてくれます。
今回ウェブをリニューアルするプロジェクトでTEDは創造性に富んだHuge社と提携しました。デザインチームは、さまざまなフォントの太さと行間隔でテストを行い、ウェブサイトに掲載される多様なコンテンツに対応する書体としてHelveticaがふさわしいことを証明しました。また編集側の要望として、名称やヘッドラインの長さなども考慮に入れています。
「イタリック体やヘッダーなどの扱い方は時間とともに微妙に変わりますが、扱うフォントはHelveticaから変わることはありません」とMikeは述べました。
TEDは幅広い言語を扱いますが、それに対応できるフォントとして選ばれたHelveticaが広範囲の言語をサポートすることできるということも重要な要素の1つでした。
今回リニューアルされたウェブサイトTED.comでよく受けるHelveticaフォントを採用したことへの批判要素は、実はTED.comにとって最も必要とされる要件であるということを示す好例となりました。ウェブサイトのデザインが不可欠な要素でありながら、サポートとしての役割を求められるとき、Helveticaは本領を発揮します。
「TEDはデザインを専門とする組織ではありません」とMikeは結論づけました。
「TEDはアイデアを創出する組織です。ですから我々にとって、デザインはアイデアを支えるものであり、それが我々のコミュニケーションのすべてなのです」