これからのリブランディングはフォントが鍵になる

How type helps you rebrand for the future.
顧客は地理的な場所だけではなく、使用中のデバイスやプラットフォームに至るまで、前例のないほど多様になっています。

昨今のリブランディングの試みは、単にブランドの見た目やイメージを新しくするだけでは終わりません。現代の企業は、目まぐるしく変わるテクノロジーや、顧客の期待に適応することを迫られています。そのためには、顧客とのコミュニケーションの仕方を根本的に変えることが求められます。

Monotypeのクリエイティブ・タイプディレクターのTom Foleyは次のように述べています。「ブランド構築では、以前は消費者と市民を別物と考えるのが当たり前でした。しかし現在では、消費者はまず市民であるという前提で意思決定するのが一般的になっています」

当然ながら、ブランド構築は絶えず進化しています。これまでも、有名ブランドがロゴを変更したり、(時に失敗に終わることもありますが)新しい製品を出してみたりして、常に新鮮な印象を与え、顧客との結びつきを維持しようとしているのを、誰もが目にしてきました。

違うのは、以前はこうした進化をブランド側が多かれ少なかれコントロールしていたということです。例えばテレビの普及などの大きな転換点の後には、何も変わらない期間が長く続いたため、リブランディングに乗り出すときは、リスクをきちんと評価し、コントロールしたうえで賭けに出ることができたのです。

当時のブランド側は、そのような環境がどれほど恵まれていたか気づいていませんでした。
 

どこから始めるか

2022年に目を戻してみると、かつてののんびりしたペースはどこへやら、世の中のスピードは急加速しています。新たなトレンドや新しいアプリが毎週のように続々と出現し、顧客の期待は膨らむ一方です。

「世界でも特にインターネットを有効に活用しているブランドは、顧客体験だけでなくブランド体験もネット経由で提供することで、他社を上回っています」と Foleyは言います。

世界でも特にインターネットを有効に活用しているブランドは、顧客体験だけでなくブランド体験もネット経由で提供することで、他社を上回っています。

Tom Foley Monotypeクリエイティブ・タイプディレクター

ブランドは大きく変化した顧客との関係に適応し、今後何が起きようと対応できる体制を整える必要があります。少し油断すればすぐに遅れをとったり、変化のスピードについていけなくなったりしてしまいます。リブランディングの範囲や規模を決めるのに悩む組織もあるかもしれません。さて、どこから始めればいいのでしょうか?大事なポイントをつなぎ合わせて全体像を描くには、どうすればいいのでしょうか?
 

フォントを利用して戦略を立ち上げる

あらかじめ決まったフォントセットがあるにしても、一から練り直すつもりにしても、フォントはブランド刷新の特に重要な側面の一つです。フォントは、ブランドのビジュアルアイデンティティに一貫性を持たせる鍵として、あらゆる顧客タッチポイントをつなぎ合わせます。色や画像などその他の要素が使えないユースケースでは、フォントが唯一のブランド表現の手段になる場合もあります。

例えば、菓子メーカーMarsのブランドアイデンティティおよびデザイン担当グローバルディレクターの Steffi Marty氏は、タイポグラフィに特に重点を置いたM&M’sの代表的なリブランディングについて、次のように語っています。「M&M’sブランドには素晴らしい存在意義がありますから、その存在意義を反映し、上手に伝えられるアイデンティティでなければなりません。ブランドアイデンティティの目的は、その存在意義を体現すること、そしてデジタルな手段を効果的に活用して、ブランドが人々の目に触れるあらゆる場所でその存在意義を感じられるようにすることです」。ブランド化された一貫性のあるフォントがあれば、その他のブランド資産が担う役割が軽くなり、デザイン言語に柔軟性を持たせることが可能になります。

リブランディングの場合、顧客の期待にどのように適応するかを判断する上で、フォントは格好の出発点になります。例えば、そのブランドはVR(仮想現実)環境で映えることが必要か、あるいはモバイルなどの画面の小さい環境にうまくフィットする必要があるのか?ターゲットの顧客層は世界中に広がっているか、またはそうなる可能性が高いか?今はそういう状況でなくても、今後数年のうちに状況が変わるのに備えておいたほうがいいのか?

以上のようなニーズに対処するにあたって、フォントは極めて重要です。顧客タッチポイントを包括的に把握することで、ビジュアルアイデンティティに関する判断を進めていくきっかけができます。フォントでブランドについての何を伝えたいか、状況によってそれぞれ異なるブランド表現が必要か、さまざまな要求に応えるために一連のフォントファミリーが必要か、と言ったことを考えてみましょう。

こうした問いへの答えを見つけることが、その後に続くあらゆることの基盤となります。あらゆる環境での視覚的効果と機能性を確保しながら、それを軸としてビジュアルアイデンティティを確立するフォント戦略を構築することができます。
 

リブランディングの終わりはどうすればわかるのか

残念ながら、それはどうやってもわかりません。

現代のリブランディングには、終わりがないのが現実です。むしろ、リブランディングとは顧客との関係を活性化させるもの、つまりターゲットの顧客層とのコミュニケーションの方法を考え直すことと捉えましょう。

どのような場合でも、リブランディングの主な目標の一つは、現在の顧客が存在している場所で顧客と接点を持つこと、そして、その顧客の将来の動向にも備えておくことです。フォント戦略は、かっちりと決まった動かせないものとみなすのではなく、リアルタイムでブランドを構築し直すことを可能にする拡張性の高いツールと考えましょう。

M&M'sほどの規模のブランドでは、フォントの柔軟性が不可欠です。…私たちはまずAll Together Serifを採用しました。ロゴのデッサンとセリフ書体から発想したフォントです。だからこそ、見た瞬間にM&M'sだと感じられるのです。

Lilia Quinaud JKR、シニアデザイナー

「現在は以前のような厳格なガイドラインではなく、柔軟性や拡張性を持たせ、デザインサイドの遊び心も取り入れられる流動的なスタイルガイドや方針が採用されるようになりました」と、MonotypeのクリエイティブディレクターJames Fooks-Baleは言います。今後数年のうちに、どんな新しいトレンドやテクノロジーが登場するかは誰にもわかりませんが、みなさまの会社の顧客も、新しいものを喜んで受け入れるのは間違いありません。より自由度の大きいアプローチでブランド構築に取り組むことで、新しいアイデアや想定外の方向性の変化にも対応できる余地を残します。さらに、統一感のあるビジュアルアイデンティティを維持することも可能になります。

「優れたデザイナーは自分自身のアイデアを忘れ、共感を抱きます」。これは、2022年にロンドンで開催されたイベントBrand Talks Londonで、イギリスの酒造会Diageoのグローバル・デザインディレクターを務めるJeremy Lindley氏が述べた言葉です。同氏は講演の中で、デザインチームは説明を受けた内容の範囲を超えて、すべての顧客の体験と期待を全面的に取り込むことが必要だと述べました。

これからのリブランディングは、Lindley氏が提唱するような心構えに切り替え、顧客の要求に臨機応変に対応し、試行を繰り返しながら適応していくことができる体制を構築するチャンスなのです。

これからのリブランディングはフォントが鍵になる
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