Bridgestone Type
ブランドアイデンティティを反映したコーポレートフォント開発について
Type& 2022 Day 1、Session 1の前半、株式会社ブリヂストン 酒本氏のプレゼンテーションのレポート。ケーススタディよりさらに詳しくコーポレートフォント制作について解説。
Bridgestone Typeについて
酒本氏は、2013年、株式会社ブリヂストンに入社。アートディレクターとしてコーポレートデザイン、デザイン戦略を担当し、現在はコーポレートブランド部門Bridgestone Design部の上席主幹をされています。セッションでは、ブリヂストンのコーポレート書体であるBridgestone Typeについて、書体の特徴や開発経緯についてお話されました。
株式会社ブリヂストンは1931年に設立されたタイヤ・ゴム業界におけるグローバルリーディングカンパニー。コア事業であるタイヤ事業、タイヤ事業の強みを生かしたソリューション事業、免震ゴムやゴルフ用品、自転車などの化工品・多角化事業を展開しています。ブリヂストンらしさを取り入れた書体として、Bridgestone Typeは開発されました。
Regular、Bold、それぞれのコンデンス体。文字全体は四角っぽい形をしていますが、画線には柔らかさを残し、xハイトが高めで、カウンタースペースを広めに取っているのが特徴です。
一番左のSの文字は曲線のメリハリを意識。線の先端がとがらないようにやや丸めています。中央のRは、文字センターの横棒を低めに設定。これにより安心感、安定感が感じられ、カウンタースペースも広く取れるように工夫されています。右側のaは、文字の細部を違和感ない程度に単純化。ブリヂストンの先進性を表現しています。様々なメディア適性を考慮して、可読性、視認性、明瞭性についても配慮しました。
この図はBridgestone Typeを作るための「デザインコード」です。横軸にCare、Confidence、Creativityがあり、縦軸はキーワードやデザイン上の要素。図表の下に行くほど具体的なデザインになるように構成されています。
開発経緯 2019–20
Bridgestone Typeの開発が決定したのは、2019年11月末。小平地区の再開発の中で、サインシステムの再考を提案した際、オプションの一つとして書体開発について言及されました。当時開発していた新しいブランドアイデンティティ(前述の「3つのC」)に合わせた書体を作り、マニュアル化するという指示がありました。2020年3月末に行われるグローバル・エクゼクティブ・コミッティで書体を承認してもらうためには、その1か月前にあるグローバル・ブランド・コミッティでの承認が必要。そこに提出するため、2月はじめに書体のデザイン提案をしなければなりませんでした。つまり、年末年始を除くと書体の検討ができる期間は1ヶ月半くらいしかなかったのです。
この期間でデザインチームは2つの方向性の違う書体、コンセプトAとBを提案。コンセプトAはブランドアイデンティティ(3つのC)を形として取り入れ、先進性を意識。コンセプトBは、ブリヂストンらしい形として円と直線をテーマとして作られた書体で、普遍性を意識しました。
コンセプトAは前述の通りですが、コンセプトBはカウンターの部分にタイヤから着想した円形を取り入れ、できるだけ直線を取り入れた形に。ブリヂストンのBマーク(大文字Bのみをデザインしたブランドマーク)の傾きである16度に合わせて文字の先端も16度に揃え、ブリヂストンらしい形を取り込みました。
書体を決める段階では、3つのCが指標となりました。当時、推奨書体とされていたPraxisは丸みがある書体で、3つのCに当てはめるとCareの要素が強い書体。それに対し、コンセプトAは、Creativityの要素が強く、コンセプトBはConfidenceの要素が強い書体でした。
ブリヂストンは、タイヤメーカーからソリューションカンパニーになるというビジョンを2020年から掲げていました。これまで安心、安全、安定(Confidence)を重視してきたことに加えて、これからはイノベーションやソリューションを表現するようなCreativityが重要になってくると考え、コンセプトAが選ばれました。
プロトタイピング経緯 2014–18
Bridgestone Typeの検討が始まったのは2014年ごろから。開発段階は以下の4つのフェーズに分類されます。
フェーズ1:現状の課題は何かを考え、社内の理解を得るフェーズ
フェーズ2:課題を元に方針を決めて、試作・検証
フェーズ3:実際に書体の意味合いを判断
フェーズ4:それを元に新しい書体に生かす
フェーズ1では、社内への認知、浸透、課題抽出を行いました。デザイン部内でも書体によるブランディングの理解があまり進んでいなかったため、Monotypeの小林章、嘉瑞工房の髙岡昌生氏と一緒に書体の勉強会を実施。社内のブランド部門や広報部門にも声をかけ、社内で勉強会の輪を広げて行きました。当時、国内外のブリヂストンで使われていた欧文書体を集めてみると、グローバルでの書体の使い方が統一されていませんでした。
フェーズ2では、先ほどの課題に対してどう解決していくかを検討。どんな書体を作るのか、左側の図のようにマッピングしながら模索し、3つの方向性を決めました。
- 推奨書体Praxisをベースにリファイン
- ブランドイメージワードから導き出した、「頼りになる」+「革新性」
- 「王道感」「個性的」「汎用性」
ここで作った書体をマップの中に落としこんで、狙い通りにできているかを検証。2回目は以下の方向性で試作しました。
- ブリヂストンロゴをベース
- 「技術力」「先進性」
- 「普遍性」「可読性」
3つ目の評価のフェーズ。
- ブリヂストンロゴとの親和性
- 安定感、先進感、技術力
- 普遍性、可読性、しなやかさ
試作した書体に加え、推奨書体Praxis、既存書体の計9つを、ブリヂストンの拠点がある日本、シンガポール、アメリカ、ヨーロッパの社員に見てもらい、ヒアリングを行いました。ヒアリング結果は集まったものの、この時はブリヂストンらしさが定まっていなかったために正解を選べず、プロジェクトは一旦休止されました。
フェーズ4。再びプロジェクトが動き出したのは2019年11月。それまでに集めた検証結果があったので、書体制作が決まった後はスムーズに進行。3つのCを元に作ったプロトタイプの検証データを元にAとBそれぞれの方向性を定めました。
先進性を取り入れたコンセプトAは、ヨーロッパで使われていたDINや推奨書体として使われていたPraxisの要素を取り入れて調整。一方、普遍性を重視したコンセプトBは、Avenirの明瞭さや信頼感を加えて調整しました。
コンセプトAは、すでに使われていたDINやPraxisに近い字幅で作られているので、書体を切り替える時も比較的スムーズに移行できそうでした。コンセプトBは円の形状を取り入れているため、デザイナーではない一般職からブリヂストンが持つもう一つのグローバルブランド、Firestoneの指定書体であるAvenirとの差が分かりにくいということでした。最終的にコンセプトAが選ばれ、デザインを調整。Bridgestone Typeが完成しました。
使用事例
現在、Bridgestone Typeはグローバルでブリヂストンを表現する書体として、様々な用途で幅広く活用されています。