「フォントかるた」的 欧文フォントの楽しみ方

トピック

Session 1「『フォントかるた』的 欧文フォントの楽しみ方」では、フォントかるた制作チーム(せきねめぐみ/伊達千代/星わにこ/横田良子氏)とMonotype クリエイティブ・タイプディレクターの小林章が登壇。

2023年6月17日にMonotype主催のタイポグラフィイベント「Type& 2023」が渋谷ヒカリエにて開催されました。2020年以降はオンラインで開催されていましたが、2023年は3年ぶりの対面方式での開催となりました。

Session 1では、「フォントかるた」を制作した4名のデザイナーチームをゲストに迎え、「フォントかるた」欧文版完成までの経緯や制作プロセスなどを紹介。「フォントかるた」とは、書体名やその特徴が書かれた読み札を読み上げ、該当する書体によって描かれた取り札を取るカードゲームです。2017年に和文書体48書体を収録した「フォントかるた」が発売され、2022年には欧文書体48書体が収録された「フォントかるた 欧文版」が発売されました。

[フォントかるたを制作した経緯]

もともとはデザイナー仲間の新年会で、せきねめぐみ氏が作ってきたフォントかるたで遊んだのが発端。その様子をSNSにアップしたところ、大きな反響があり、商品化することになりました。伊達千代氏が解説文を書き、星わにこ氏が販売方法を模索、横田良子氏がかるたの印刷や加工について検討し、4人のチームで制作したそうです。

発売後は、フォントに詳しい人だけでなく、ボードゲームが好きな人など幅広い層から人気に。テレビ、雑誌、新聞の取材も受け、販売網を広げていきました。現在では、印刷博物館、市谷の杜 本と活字館などのほか、デザインフェスタなどのイベント、Amazonなどでも販売されています。発売してから6年で累計1万3000部を超えるヒット商品に。『愛のあるユニークで豊かな書体。フォントかるたのフォント読本』という書籍も出版されました。

フォントかるたに書かれている「愛のあるユニークで豊かな書体」というのは、写真植字の会社、写研の書体見本帳で使われていた文章。1つの文章の中に、漢字、ひらがな、カタカナがバランスよく配置されています。フォントかるた制作チームがこの文言を使用することに問題はないか確認したそうです。

 

[欧文版を作った経緯]

フォントかるた制作チームは、2017年に大阪で開催された「看板文字と中村書体 ゴナとナールと中村書体」というトークイベントに参加し、そのイベントに出演していた書体デザイナーの中村征宏氏と小林章にフォントかるたを手渡しました。「書体デザイナーは書体で遊ぶことを嫌がるのではないか?」と思ったそうですが、小林のブログでフォントかるたが紹介されて一安心。「それなら欧文版も作りたい!」と制作を思い立ったそうです。

 

その後、2022年にフォントかるた欧文版が完成。遊び方は和文版同様、フォント名とその特徴が書かれた読み札を読み上げ、48種類の取り札から該当するフォントで描かれた札を取ります。取った札が正しければ手元に置き、間違っていたら場に戻し、取り札が最後1枚になったら終了。取った札の枚数が多い人が勝ちというゲームです。

 

[欧文版の特徴]

フォントかるた欧文版の取り札には、大きく10文字(RQKM&EJ3G*)のアルファベットと短い文章が掲載されています。裏にはそのフォント名と大文字小文字の書体見本が掲載されており、札をひっくり返すと正しい答え(書体名)がわかるしくみです。読み札には、日本語と英語で書体の解説を記載。かるたのパックには、取り札、読み札、表紙札が入っています。

[48書体の選択方法と取り札のデザイン]

フォントかるた欧文版には48種類のフォントを収録。かるたに収録するフォントを決めるときの選定条件は以下の6項目。

  1. 書体の系統をバランスよく網羅すること。
  2. 古くからあり名前がよく知られている書体であること。
  3. 見分けやすい特徴があること。
  4. 名前は知らなくてもよく見かけているはずの書体。
  5. 個人的に知ってほしいフォント。
  6. 詳しく特徴を捉えないと取れない難易度のものから一瞬で見分けられるものまで段階的になっていること。

このうち、ゲームとして大切なのは6番。簡単なものから難しいものまでまんべんなく入っている方がゲームとして盛り上がるそうです。

欧文フォントを選んだり、解説文を書いたりすることは自分たちだけでは難しいと考え、小林に依頼しようとします。しかし、「書体デザイナーじゃなくて、客観的に書体を見られる人に頼んだら? そのうえで楽しみながら選んだ方が面白いものができるよ」という小林のアドバイスに従い、欧文フォントに詳しいakira1975氏に監修を依頼することに。翻訳と欧文組版の監修は、京都のデザインクラフトにお願いしたそうです。

取り札のデザインでは、試行錯誤を重ね、デザインが決まるまで2年ぐらいかかったとのこと。フォントかるた制作チームは全員デザイナーですが、欧文フォントに対して以下のような苦手意識があったのだそうです。

  1. 英語への苦手意識(けど使いたい)。
  2. 欧文フォントの系統や歴史を知らない。
  3. 使用例が少ない(ので慣れない)。
  4. 有名なフォントなら安心?
  5. 多すぎて選べない。
  6. 組版ルールがわからない。
     

そこで以下の書籍などを参考にしながら欧文フォントの勉強をしたそうです。
 

『欧文書体 その背景と使い方』

『欧文書体2 定番書体と演出法』

『欧文書体のつくり方 美しいカーブと心地よい字並びのために』

〔増補改訂版〕欧文組版:タイポグラフィの基礎とマナー

『フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?』

『タイポグラフィ・ハンドブック』
 

[フォントかるた的注目してほしいフォント]

このSession 1では、48種類の取り札のうち、いくつかのテーマごとに欧文フォントが紹介されました。
 

「特徴がはっきりしていて選びやすいフォント」として、Comic Sans、Brush Script、Hobo、Impactを紹介。ドイツに住む小林が現地で撮影した書体の使用例の写真を見ながら、各フォントの特徴や使われ方を解説しました。

Brush Scriptの使用例:ドイツの駅にあった自動販売機 親しみがある、食べ物が早く出てきそうな雰囲気を演出。

Hoboの使用例:ドイツの高速道路に沿って建てられた「今年の樹木」看板 自然、草花、オーガニックなものと相性がよい。まわりに溶け込むような自然なフォント。

「心をくすずるフォント」として、Cooper Black、Gotham、Trajan 3、Wilhelm Klingspor Gotischを紹介。

Cooper Blackの使用例:ドイツのコメディアンのポスター、農産物や畜産物の販売所の看板、アメリカで見た玩具屋の看板、フランスの酢、チェコのパン屋の看板。ドイツのドレスデン市のクリスマス市、ドイツの高速道路を移動中の遊園地のアトラクションのトレーラーなど。 安くて新鮮でおいしい食品や玩具のイメージ。お祭りやアトラクションでも使われている。

Wilhelm Klingspor Gotischの使用例:歴史ある建物のドイツの本屋 城や歴史的なものなど、古いものでよく使われている。

「よく知られている書体のシリーズ」として、Helvetica、Optima、Arial、Futuraを紹介。

Futuraの使用例:スイスのベルンで泊まったインテリアに未来感のあるホテル、フランスの公証人役場、フランスで発行されたユーロ硬貨 清潔感があって、パリッとした雰囲気を演出。

Optimaの使用例:スイスのチョコレートのパッケージ 超高級で手が届かないのではなく、手が届く範囲での高級感を出すときに向いている。

Helveticaの使用例:スイス鉄道のロゴ

Helveticaの使用例:ニューヨークの地下鉄

Helveticaの使用例:(以前の)フルトハンザ航空のロゴ

Helveticaの使用例:(以前の)ドイツの銀行Sparkasseのロゴ

Helveticaの使用例:(以前の)ドイツ鉄道の行先標

Helveticaの使用例:ドイツ赤十字のロゴ

Helveticaの使用例:駐車場の入り口を示す表示

Helveticaはすでにいろいろな企業が使っていて、個性を出しづらいので、最近では独自のコーポレートフォントを使う企業も増えている。

Helveticaを使っている企業の一例:スイス鉄道、ドイツ赤十字、Lufthansa、American Airlines、Panasonic、Jeep、Tupperware、The North Face

「最後のグループ」として、Akko Rounded、Zapfino Extraを紹介。どちらも小林が制作に関わったフォント。Akkoの由来は、Akira Kobayashiの「Ak」と「Ko」をあわせたとのこと。

このように、フォントの形や特徴を覚えるだけでなく、実際にどのように使われているか事例を見ると、フォントへの理解がさらに深まります。フォントかるた制作チームの皆さん自身が楽しみながら活動されている様子が印象的でした。締めくくりに、セッションの最後にはフォントかるたのみなさんが寄せられた質問に答えました。

セッション終了後に行われた懇親会では、実際にType&の参加者と小林がフォントかるた欧文版で対戦。デッドヒートを繰り広げ、大いに盛り上がっていました。

Type& 2023 Session 1 The devil is in the details or 神は細部に宿る のレポートを見る。

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